企業の人事という観点から考えると、まずは、直接の摩擦・紛争解決者であるラインマネージャーのスキルトレーニングの企画および実施、これが第一に重要になってくるであろう。 一般的に、ここアメリカでは、部下を持つ上司に対して行う、Supervisory Trainingというカテゴリーが存在する。 これは主に、上司・従業員(部下)間、あるいは、監督する従業員間の相互関係(interactions)の改善をメイントピックにしているもので、なかでも、conflict management skillが最も重要度の高いスキルトレーニングとして挙げられているようだ。
人事が組織内で発生する、従業員間の「負の摩擦」に介入する方法としては、1)ラインマネジャーの摩擦・紛争解決能力を高めることを第一義としつつも、2)摩擦・紛争解決のためのシステム整備といった二刀流で固めておく必要があると考える。 なぜなら、ラインマネージャーは、人に評価を下し、処遇を決めるといった仕事に関わる以上、紛争・摩擦の当事者になる可能性は高くとも、決してその可能性を排除することはできないと考えるためである。
また、ダイバーシティ時代には、従業員レベルでの摩擦解消・解決能力、それに伴う意識レベルの向上が大変重要になってくると思われるが、この部分に関しては別の機会に重点的にお話したいと考える。
前置きが長くなりましたが、今日お話したかったのはもっとファンダメンタルなこと。
「紛争を解決に導くために最も重要なことは?」
この問いについて、少しお話をしたいと思う。 HRIR5021のクラスのアサインメントの中で、現地で紛争解決を生業としている人を訪ね、インタビューをするといった課題があった。 私はここミネソタ州の州都、セント・ポールで地方裁判官 (district judge) として働く、Judge Steven Wheelerさんを人伝に訪ねることにした。
彼にはいろいろと質問をしたが、一貫して強調していたのが、紛争解決のプロセスにおいて、「人々がフェアに扱われること」、「人々がフェアに扱われていると感じること」の重要性であった。
彼は、「最も重要なことは、彼らが話を聞いてもらっていると感じること。 もっと言うと、彼らの言わんとしていることがちゃんと聞いてもらえていると、彼らが感じること。」が、紛争当事者にとってのフェア感のバロメーターになっているのだと語る。
ここで少し補足をすると、アメリカで言うjudgeのお仕事は、日本の「裁判官」とは必ずしも一致しないということ。 アメリカのcourt systemを簡単にお話しますと、民事訴訟の場合、mandatory ADR (Alternative Dispute Resolution): 仲裁、調停など、といったプロセスを裁判に行く前に必ず経なければならないのだそうだ。
日本でも今年2007年4月からADR促進法、裁判外紛争解決法が施行されたようだが、この裁判外紛争解決手段がアメリカの民事訴訟の場合、義務的にcourt systemの中に組み込まれている。 お会いしたJudge Wheelerさんは、pre-trial /settlement conferenceという裁判の一歩手前のプロセスを主に担当していて、彼の役割の大半は、紛争当事者(主に弁護士)との面談を重ねて、裁判に行く前に何とか和解するように仕向けることだと言う。 彼の経験値によると、このシステムを用いてからは、民事訴訟の大体98%は、裁判に行く前に和解、解決しているそうだ。 つまり、残り2%のみが和解の糸口を見つけられずに、お金も時間も莫大に費やして、裁判で白黒をつけるといった最終的な手段に頼ることになるのだと言う。
彼は「このシステム自体は悪くないシステム。」だと言う。 しかし、「システムが重要なのではない。 人々がフェアに扱われていると感じるかが(紛争解決には)重要なのだ。」と言い切る。 そして、Judgeとしての自分の仕事はそれを確かめ、確実にすることだと語る。
どんなに効果的なシステムを創り上げたとしても、そのシステム自体は、必ずしも人々に対して、フェアに扱われているといった感覚を約束するものではない。 人々がフェアに扱われていると感じるためには、Judge Wheelerさんのような、「人々」の助けなくして実現しえないものだと、今回のインタビューを通して切に感じた。
これから人事のプロを目指す私にとって、常に頭の片隅に置いておきたい、大切な言葉、教訓である。
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