「ICUでは「専門教養」という考え方をとっています。 「広く浅くいろいろなことを学ぶ」のではなく、「専門分野を深く学び、知的な営みの本質に触れる。」ことこそが、教養を成立させるという考え方です。」と、絹川前学長は語る。 また、従来の大学カリキュラムと違うのは科目ではなく、「学び方」だと言う。 他専攻の学生との共同セミナーがそれだという。
例えば、「水」という大きなテーマについて、さまざまな専攻の学生が議論する。 そのことで化学から見た「水」、物理から見た「水」といった多面的な捉え方ができるという。 それは同時に、自分の専攻である「化学」や「物理」を、他の学問や社会問題の中に位置づけるとうことでもあるわけです、と氏は語る。
これは最近、企業サイドでよく聞かれるT型人材の考え方とよく似ている。 つまり、一つの深い専門と、できる限り広く浅い知識をもつ人材のことである。 企業を従業員にとっての「教育の場」と見なせば、P&Gのような会社は、T型人材を多く育てようとしていることがはっきりと見受けられる。 つまり、採用は基本的に職種別で行い、ローテーションは頻繁に行われるものの、職種間をまたいだ異動は基本的に存在せず。 しかし、クロスファンクショナルなタスクフォースでの活動機会も与えられることから、ICUでいうところの共同セミナー的役割もカバーしている。
ICUは近年「卒業生の生涯給料獲得ランキング」でトップクラスに入っているそうだ。 これはICUが実践してきた「専門教養」教育の中で育った人材が、企業社会の中で高い市場価値を示していることを意味するものである。 この指標だけをもって、早計に結論付けるわけにはいかないが、この事実は一定の仮説設定を可能にする。
もし、T型人材が現在の日本の企業社会の中で、すでに高い価値を示しているのあれば、これからのダイバーシティ時代には、ますますこのT型に対するニーズが高まっていくだろう。 なぜなら、これまで違いを同化させてきた日本企業は、これからますます違いを認め、またこれを統合し、生かすといったパラダイムにシフトしていくためである。 つまり、深い専門を持つことが各人の違いとなって組織に価値をもたらすとともに、かつこの違いを組織のさらなる競争優位を実現するために結びつける作業が必要になるからである。
T型人材がダイバーシティ時代の最も好ましいモデルとは言わないまでも、Multicultural Organizationを目指す多くの企業から多くのニーズを集めると、予想してもよさそうだ。
参考資料: Works 85号. Dec 2007 - Jan 2008 「教養とは何か - 教育の現場から」
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